イビチャ・オシムが日本人監督に告ぐ――。「バルセロナが作り上げた時間は買えない」

写真拡大

 浦和レッズ・阿部勇樹、川崎フロンターレ・中村憲剛、ジェフ千葉・佐藤勇人……いまなお多くのサッカー選手から圧倒的な支持を受ける、元日本代表監督イビチャ・オシム氏。

 そのオシム氏が9月に2年ぶりの新刊『急いてはいけない』(ベスト新書)を刊行し、大きな話題を呼んでいる。

 前出の阿部、中村憲、佐藤勇に加え、羽生直剛(FC東京)、水野晃樹(ベガルタ仙台)、柏木陽介(浦和レッズ)といった現役サッカー選手や、ジャーナリスト、一般の読者などから質問を募り()、それに対してオシムが答えていく、といういっぷう変わった構成になった一冊は、相変わらずのオシム節が健在で、新しい発見に満ちている。
 
 例えば「日本人のリーダーに望むこと」として、こんな一節がある。

「日本の監督の問題は、彼らが自分たちのことに関心を持っていないことだ。他人が何をやっているかばかりを気にして模倣しようとする。だがそれではだめだ。(中略)モウリーニョやグアルディオラの得た結果ばかりを追いかけるべきではない。」

「(バルセロナは)つねに同じやり方でトレーニングをして、プレーを続けてきた。そしてようやく今の地点にまで到達した。それまでに要した時間は、金で買えるものではない。時間までもが金で変えるのならば、すべては簡単すぎる。」

 サッカー大国となるために、足元を固めることなく目先の結果、模倣に走る日本への痛烈な一言にハッとさせられる。そして、こうした問題意識のなかで、日本のサッカーは、監督(リーダー)はどう在るべきなのか。いかにして日本独自のサッカーを築いていくのか。オシムは饒舌に語っている。
 
 また、これまで指導してきた日本人選手たちへの「メッセージ」とも取れる章がある。すでに多くの選手が、中堅からベテランの域に達した“オシムチルドレン”に対し、一人ひとりの名前を挙げながら彼らの行くべき方向性をそっと示す。

「佐藤勇人は本物の汗かき役だ」

「阿部勇樹はすべてを備えていた」

「羽生直剛はさほど効率的ではなかった。だがすべてを理解していた」

 こうしたオシム評は、選手への愛のある叱咤であると同時に、読み手であるわれわれにも訴えかけてくるものがある。「まじめで勤勉は美徳だが行き過ぎてはならない」、「反対側には同じことを願っている相手がいる」……。そして、変化が激しく、何もかも加速する時代だからこそ……「急いてはいけない」。

 バルセロナやバイエルンがいかにコレクティブな発想を持って成長してきたか。それをわれわれはどのように見るべきなのか。そして、何を取り組むべきなのか。

 サッカーにとどまらない、オシムの新しい言葉は必読だ。
『急いてはいけない 加速する時代の「知性」とは』(ベスト新書)
イビチャ・オシム
本体800円+税/208ページ/KKベストセラーズ