前半は要所でパスワークの起点になっていたが、後半は相手の勢いに飲まれる形で存在感が希薄になっていった。(C)SOCCER DIGEST

写真拡大

[ロシアワールドカップ・アジア最終予選]日本2-1イラク/10月6日/埼玉
 
 柏木陽介は、イラク戦での自身の出来に、明らかに納得していない様子だった。いや、一時は"納得していない"を通りこして、諦めに近い感情を抱いていたのかもしれない。
 
「後半は相手がもっとプレスをかけてきたなかで、本当に蹴るというか、どんどん間延びしていった。そうなると展開的には俺じゃないな、と試合のなかで感じた。一回早い段階で(交代の準備をする山口)蛍も見えていたし、そっちのほうが多分チームとしてはまとまるかなと。1-0で勝っていた状況で蛍が準備していたから、そっちのほうがいいかなと思った」
 
 1点リードで迎えた後半、縦に速い攻撃を仕掛けてくるイラクの勢いに飲まれる形で、日本の中盤は間延びし、ボールを保持する時間が減っていった。必然的にボランチがボールを持つ機会は減り、「今回はタクティックのチョイスで柏木が後ろから組み立てることが必要でした」(ハリルホジッチ監督)と指名された背番号7の存在も希薄になっていった。
 
「久しぶりにここ何か月かで、今日は良くなかったな、サッカーしてないなって思う試合やったかな。ちょっと悔しいっていうか、チームが勝ったからこうやけど、引き分けやったらもっと自分の気持ち的には引きずってしまうような試合やったかなと」
 
 とりわけ、失点後の7分間は、その気持ちが強かっただろう。1-1に追いつかれて追加点が必要な展開にも関わらず、満足にボールに触れられない。そして、そのまま67分に山口との交代でピッチを後にした。その自分の中で消化しきれないもどかしさが、先の「展開的には俺じゃないな」という諦観の言葉を吐かせたのだ。
 
 とはいえ、チームが逆転勝ちを収めたこともあり、試合後は自分を奮い立たせるように前を向いた。
 
「(期待されたプレーを)できなかった分、悔しさがある。ただ、良い準備をして、試合に出た時に良い結果を出すだけなので、ちょっと悔しいけど気持ちを切り替えて。日本の勝利だけを目指してやっていくなかで、自分のプレーの質を上げて行けたらと思います」
 
 そして、こうも付け加えた。
 
「どんな状況でもある程度平均したプレーを出せるようにならないと、今後自分が上に行くためには足りない」
 
 まずはチームの勝利を最優先し、そのなかで自分の存在感を高めていく。劇的勝利の陰で屈辱に身を焦がしていた司令塔は、新たな決意を胸にホームスタジアムを去っていった。