“剥がす重要性”を示した清武。オーストラリア戦での活躍も期待。写真:(C)SOCCER DIGEST

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[ロシアワールドカップ・アジア最終予選]日本 2-1 イラク/10月6日/埼玉
 
 「劇的な勝利」と言えば聞こえはいいが、冷静に振り返れば格下と目されたイラクに大苦戦。試合展開を苦しくしたのは、もちろんあの失点だ。とはいえ、日本がセットプレーから崩れるのはもはや想定内で、イラク戦の失点に関しても大きな驚きはなかった。ここまで来ると、セットプレーの弱さは致命傷。正直、改善の余地は見込めないのではないか。

【日本 2-1 イラク|PHOTOギャラリー】山口の劇的弾で苦しみながらも勝利を掴む!

 おそらく、最終予選の残り7試合では少なくとも「1ゲーム・1失点」は覚悟しなければならないだろう。となると、日本が試合を優位に進めるためには複数のゴールが必要になるわけだが、しかしながらイラク戦でも効果的な攻撃は少なかった。
 
 80分過ぎからCBの吉田を前線に上げ、彼のポストプレーでいくつかチャンスを作った点はポジティブに映った。実際、吉田がファウルをもらって得たFKをきっかけに山口の決勝弾が生まれたのだから、あの“奇襲攻撃”はハマったと言える。
 
 問題は、それまでの戦い方だ。4バックに2ボランチを加えた6人が前線のスペースもしくは味方を探しながらボールをいくら回しても、攻撃のテンポは一向に上がらない。ボランチのひとり柏木が「後半は相手がもっとプレスをかけてきた」と言うように、日本はイラクの寄せに苦しんでいる印象だった。
 
 日本に足りなかったのは、そのプレスを剥がす個々の打開力だ。本田、岡崎はキープこそできるものの、そこから怖さを与える展開にほとんど持ち込めていなかった。2ボランチの長谷部と柏木も、独力で持ち上がれるタイプではない。酒井宏樹、酒井高徳の両SBにしても、そこまで突破力があるわけではないだろう。事実、いくらパスを回してもイラクの陣形はほとんど崩れなかった。
 
 もちろんパスの精度を高めてよりスピーディに回せれば剥がせるはずだが、活動期間が限られ、メンバーも変わる代表チームでコンビネーションを高めるのは想像以上に困難な作業だ。だからこそ、個の力が重要になってくる。
 
 追求したいのは、先制点につながる清武のプレー。自陣でパスを受けると、すかさずドリブルで敵をひとり剥がしたあの崩しだ。なにより見逃せなかったのは、センターサークル付近で清武がフリーになった瞬間、イラクの守備陣が完全に受け身になっていたということである。
 
 その後、清武は右サイドを走るフリーの本田にパスを出すのだが、イラクのその場凌ぎのディフェンスには圧力がなく、本田→清武とつないで最後は原口がヒールで先制点を奪う(もっとも、清武が右サイドで本田を追い越したシーンはオフサイドに見えた)。イラクの守備陣を混乱させたという点で、清武は殊勲者だ。
 
 清武が個の打開力で作り出したその決定機は、間違いなく“剥がす重要性”を示した場面でもあった。
 独力でチャンスを作れる点では、左ウイングで起用された原口にも期待したい。終盤に強引にドリブルでマーカーを剥がすなど精力的な仕掛けで何度か局面を動かしていただけに、今後攻撃のキーマンになる可能性はある。
 
 とはいえ、清武と原口が試合を通して安定していたか言えばそうではない。だからこそ、苦しい展開になったわけで、もうひとりかふたりドリブルで剥がせる選手がいれば日本のチャンスは増えたかもしれない。
 
 その意味で、ハリルホジッチ監督の采配には疑問が残った。1‐1に追いつかれて以降、イラクが明らかに引いて守るような展開で投入したFWが、浅野と小林だった。スペースがあってこそ生きる彼らよりも、あの局面で効果的だったのは齋藤のようなドリブラーだったのではないか。
 
 もちろん、ドリブラータイプだけを並べれば崩せるわけではないだろう。ただ、少なくとも崩しの鍵を握るウイングにはそういう選手を置きたい。その意味で、俊敏性に欠ける本田の右ウイング起用は再考の余地ありだ。

取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)